12歳で触れる「本物のベースボール」~ベッツ、大谷翔平、LLWSから考える野球の未来~
テクノロジーの進化で世界を身近に感じるようになった最大の利点は、遠くにいる人とのコミュニケーションが容易になったことだ。通訳としては感謝してもしきれない。
先日も、MLBで活躍中のムーキー・ベッツ選手や彼のエージェントとチャットで雑談を交わした際、日本の甲子園やアメリカのLLWS(リトルリーグ・ワールドシリーズ:11〜12歳を対象とした少年野球の世界一決定戦)の話題で盛り上がった。コラム2回目は、ペンシルベニア州ウィリアムズポートでの熱戦を終えたLLWSから見えてくる「野球の未来」について綴ってみたい。
この夏、日本代表として東京・城東リーグを世界3位に導いた竹田正紀監督に話を聞いた。
竹田監督(以下、タケ)は名門・北砂リトルのOBで、昨年はヘッドコーチ、今年は指揮官として2年連続でウィリアムズポートの土を踏んだ。この世代における世界基準を、誰よりも肌で知る指導者だ。日大三高のひとつ下の後輩にあたるタケは、当時から主将としてチームをまとめつつも、常に客観的でクレバーな視点を持つ男だった。
帰国後、充実した表情で語ってくれたタケの言葉が印象に残っている。
「一番の思い出は、国際プール決勝のキュラソー戦で、メイン球場のラマード・スタジアムで試合ができたことです」
数万人を収容する巨大スタンド、世界へと向けられた中継カメラ、大観衆が醸し出す高揚感。11~12歳の少年たちにとって、あの圧倒的な大舞台でプレーした経験は、単なる「ひと夏の思い出」に留まるものではない。
幼少期に世界最高の舞台や文化に直接触れることは、その後の人生における選択肢を爆発的に広げる。子どもたちに最高峰の環境を用意することは、単なる育成の枠を超えた、日本野球界への極めて有効な「先行投資」となる。
現に、LLWSを経験した若者が米国の高校・大学へ進学し、近年のMLBドラフト候補に名を連ねるケースが増えている。タケの教え子にも、LLWSで世界一を経験して現在はハワイ大学で活躍する冨井翼投手や、南カリフォルニアの名門高校を経てカナダのブリティッシュコロンビア大学へ進んだ藤原隆聖選手らがいる。
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1939年に始まったLLWSは今、MLB機構の全面バックアップのもと、現役メジャーリーガーによる公式戦「MLBリトルリーグ・クラシック」が併催されるなど、世界のトップとジュニア世代が融合した一大エンターテインメントへと昇華している。
そこには、未来ある選手を守り、育てるための緻密なシステムが存在する。
全員打ちルール(登録選手12~13人全員が出場)
厳格な投球数制限(85球以上は中4日、35球以上は中1日など)
ダブルエリミネーション方式(敗者復活戦があり、初戦で敗れても巻き返しが可能)
初戦でまさかのノーヒットノーランの完敗を喫しながら、そこから5連勝で世界3位まで駆け上がった今年の日本代表の活躍は、まさに「一度の失敗で終わらせない」フォーマットがあったからこそ生まれたストーリーだ。
さらに、本塁打を放った選手がダイヤモンドを回る際、相手チームの選手とハイタッチを交わす光景も象徴的だ。「一戦必勝」「トーナメントの一発勝負」という美学が根強い日本のアマチュア野球から見れば異色に映るかもしれないが、勝敗を超えたスポーツマンシップの原点がそこにはある。
国内に目を向ければ、少子化や他競技への流出により少年野球人口の減少が叫ばれて久しい。しかし、清宮幸太郎選手や松本剛選手をはじめ、LLWS経験者がNPBの主力として飛躍している現実は「幼少期の本物の体験」が持つ価値を裏付けている。
高校時代からMLB挑戦を公言していた大谷翔平選手も、かつて水沢リトルの選手としてウィリアムズポートを目指した一人だ。幼少期に描いた「世界」のイメージが、後の偉業の原動力となったことは疑いようがない。
「実はボク、体のサイズが小さすぎるって理由で地元のリトルリーグには入れなかったんだ。でも母が『どこにも入れなかった子どもたち』を集めてチームを作ってくれたんだよ」
ベッツ選手は、野球を始めたきっかけを明かしてくれた。175cmに満たない身体でありながらメジャーの頂点に立つ彼が教えてくれるのは、才能を開花させるために最も必要なのは可能性を閉ざさない「機会」と「環境」という事実だ。
「世界とダイレクトに繋がっているLLWSのフォーマットは本当に最高ですよ」と、タケは語る。「世界レベルで勝ち抜くには、最低でも4〜5人の投手が必要です。全員打ちの攻撃だと10番、11番、12番の下位打線に回るイニングは正直、大きな期待はできません。でも『ゴロを転がせば何かが起きるぞ!』と声を掛け合いながら、全員で繋いでいく楽しさがあるんです」
既定路線や慣習に縛られず、若者が早い段階で世界基準に触れられる仕組みを整えること。子どもたちが世界を見据えて翼を広げられる「舞台」を、大人がいかに用意できるか。ウィリアムズポートの芝の上ではじけた少年たちの笑顔は、日本のベースボールの未来をより豊かにするための明確なヒントを示している。
日本対キュラソー(国際プール決勝戦)
野球場で出会った、たくさんの言葉たち。アスリートの剥き出しの感情や、美しくも泥臭いベースボールのリアル。「Between the Lines(行間を読む、フィールドの白線の内側)」というタイトルには、そんなスコアブックには表れない背景を訳して伝えたいという思いを込めました。どうぞ、ご贔屓に。
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